ほびあに覚え書き

キッズアニメ・ホビーアニメの分析考察をまとめていこうと思います。気が向いた時に書きます。

レゴニンジャゴー・ザ・ムービー ロイド推しファンによるレビュー

レゴニンジャゴー・ザ・ムービー』がついに公開されました。レゴ映画としては2014年の『レゴムービー』、今春の『レゴバットマン・ザ・ムービー』に続く三作目となります。

「同名のテレビアニメもあるけど、どう違うの?」という方に本作の立ち位置を簡単に説明しますと、『レゴムービー』にカメオ出演していたキャラクター「グリーンニンジャ」のスピンオフとなります。グリーンニンジャの出身作品が現在日本でも放送中のアニメ『レゴニンジャゴー』であるため、元のアニメと同じ名前のキャラクターでありながら『レゴムービー』の延長線上で展開される、いわばパラレルワールドと考えてよいでしょう。

 

画面に映る世界の全てをレゴで表現した『レゴムービー』、レゴだからこそできる越境ヒーロー大戦を実現した『レゴバットマン・ザ・ムービー』に続き、今作はレゴによってスタントさながらのアクションシーンを表現することに特に力が注がれています。本作のおすすめポイントを挙げるだけでも、

・ダイナミックに暴れ回るレゴロボット同士の戦闘

・カンフーを基にしたハイスピードで縦横無尽のミニフィグによるバトルアクション

・戦隊もののように個性豊かでキュートなニンジャたち

・レゴ映画前二作からの継続テーマである父と子の融和

と列挙にいとまがないのですが、その中でもテレビシリーズのファンとして

・オリジナルのテレビシリーズがあるからこその『レゴニンジャゴー』という物語の積み重ね

という点に非常に心が打たれました。他の見どころは熟練の映画ファンに任せ、今回はテレビシリーズからのニンジャゴーファンとして、そして主人公・ロイド推しのファンとして、この点に絞ってレビューをしていきたいと思います。

 

1、テレビシリーズでこれまでに語られてきたロイド

本映画の主人公であるグリーンニンジャ=ロイドは、テレビシリーズではパイロットムービーに続くシーズン1より、ガーマドン卿(日本版においては、地上波放送されたパイロットムービー総集編よりブラックガーマドンと訳される)の息子、ガーマドン小僧として登場しました。悪党養成学校で育ち悪の帝王である父親に憧れていた彼ですが、カイたちニンジャに保護され、ウー先生に諭されたことで生来の優しい心を取り戻し、やがて伝説に予言されたグリーンニンジャとして悪の父親と戦い世界を救う運命を託されます。グリーンニンジャとなったことにより、ロイドは短い子供時代を終え、仲間やウー先生、再会した母親に見守られながら身心ともに伝説のニンジャとして成長していくことになります。

父親を救い出してからのロイドは次第にチームのリーダーとして、ひいては師匠のウー先生のようなニンジャの先生になるため技や心を磨くこととなります。その過程では、ようやく善の心を取り戻し親子としてやり直そうとしていた父・ガーマドンや、最新シリーズではウー先生をも失ってしまいます。最年少のリーダーでありながら導き手を失ったロイドですが、仲間たちを率い、時に支えられながら伝説のニンジャとして歩んでいく姿が示唆されています。

 

2、映画の主人公として再編されたロイド

テレビアニメで壮絶な人生を生きるロイドに対し、映画でのロイドは初めから仲間たちと同い年であり、ごく普通に学校に通う高校生です。ブラックガーマドンが父親であるせいで街中から嫌がらせを受けていたり、秘密のニンジャとなって戦っている一面はありますが、伝説や言い伝えを背負ってもいなければ、ニンジャとしての戦いも学生らしくクラブ活動のように生活の一部分のみであり、ウー先生のように言えば心技体ともに未熟そのものだったでしょう(尤も、それは彼が普通の高校生として暮らしている以上当然なのですが)。

しかしその未熟さが父親に対する怒りと衝突したとき、ロイドは大きな過ちを犯し、世界で唯一の友達だった仲間たちからの信頼も失いかけます。過失を取り戻すためロイドたちはレゴで作られた箱庭を出ていくことになりますが、同時にそれは伝説のニンジャとして成長するための、また父親を理解するための旅ともなるのでした。

 

3、テレビアニメと映画のロイドの共通点

境遇の全く違う二人のロイドですが、大きな共通点が2点あります。

一つはこの物語がロイド・ガーマドンという少年が精神的に、もしくは身体的にも未熟だった状態から、伝説のニンジャとしてチームを率いるリーダーとなるべく成長していく物語だということです。テレビアニメでは、グリーンニンジャとしての特別な能力を操るため、巨悪に立ち向かうため、また仲間たちと共に戦うための強い心を身に着けていきました。映画では、仲間の力を引き出すため、父親を理解し歩み寄るための聡明さを身に着けたことから、自らがあらゆる存在を受け入れ繋げるための「命」のピースであることを知りました。

二点目はロイドが父親との繋がりを求めていることです。幼い頃は父親に憧れ、対決を目前にしてもなかなか迷いを拭えないほどに父親を慕っていたテレビアニメのロイドに対し、街を破壊しそのせいで周囲から嫌がらせを受けていることから父親を毛嫌いしている映画のロイドは一見相反するように見えますが、その怒りの底には、冒頭でガーマドンに自分への未練があるのではないかと期待している様子から見えるように、父親に傍にいてもらえない寂しさや悲しみの感情があることがわかります。そして物語のラストでは「ただ一緒の時間を過ごしたかった」と感情を吐露し、ガーマドンとの和解を果たすこととなります。

 

4、映画であることによるキャラクターへの救済

以上のように見ていくと、本映画が『レゴニンジャゴー』という子供たちに人気のテレビアニメの物語の重要な要素を抽出し、子供だけでなく親子で見ることを想定したレゴ映画としてまとめ上げられたものであることがうかがえます。しかし、単なる総集編ではなく、『レゴバットマン・ザ・ムービー』が過去のバットマン映画へのリスペクトをふんだんに含んでいたのと同じように、テレビシリーズの裏の物語としての側面も持っているのです。

例えば、テレビシリーズではロイドは父・ガーマドンと親子としての時間を十分に過ごす前に別れなければなりませんでした。しかし映画では母・ミサコと共に幸せな家族としてやり直していくエンドとなっています。同じように、テレビシリーズでは望まずして悪になったことから家族と共に暮らすべく世界を悪に染めようとしていたガーマドンも、映画ではロイドの努力により、ありのままで家族と共に暮らせるようになりました。

このように、テレビシリーズでどうしても救われなかった部分が救済されているキャラクターは他にもいます。テレビシリーズでは幼少期に父母が行方不明になったことから人一倍承認欲求が強く独りよがりになりがちだったカイが仲間を熱く思いやれる性格になっていたり、現在は天涯孤独のゼンにロボットの母親までできニンドロイドとしてのびのびふるまっていたり、家業であった音楽やダンスが苦手で父親との間に壁を感じていたコールが音楽とニンジャ業を両立するキャラクターになっていたり、などです。

本映画ではテレビシリーズと容姿が大きく違うキャラクターも多いですが、そこには『レゴムービー』のスピンオフという設定以外にも、あり得たかもしれないifの姿、裏側の姿としての意味も込められているのかもしれません。

なお、原作アニメファンとしてはこうした理由から、テレビアニメと同じ声優陣がメインキャラを演じている吹替版を強くお勧めします。5年間ニンジャたちと歩みを共にしてきた演じ手だからこそ表現できるキャラクターの深みがあるように思うのです。

 

5、テレビアニメ次期シーズンのロイドへ寄せて

ここからは推測ですが、映画のロイドが父親との問題を乗り越え、伝説のニンジャとして成長した姿だとすると、逆にテレビアニメにもフィードバックされるものがある可能性があります。

今年7月のサンディエゴコミコンにて、テレビアニメ制作スタッフより次期シーズン8では作中時間の経過によりロイドの容姿が変わると予告されました。YouTube公式チャンネルでは、このとき発表された予告映像が公開されています。

最後にマスクを取ったロイドと思しき青年の容姿は映画でのロイドそっくりです。スタッフの言葉と合わせて解釈すれば、現在のテレビアニメのロイドが成長しこの容姿になると想像できます。

現段階ではこれ以上の情報が公開されていないためこじつけの部分もありますが、ここから読み取れることがあるとすれば、この容姿になったロイドは、父親と別れた悲しみを乗り越え、師匠のウー先生がいなくても仲間を導けるほどにリーダーとしても成長した姿なのではないでしょうか。

 

映画でもアニメでも、ロイドは辛い境遇に置かれながらも、自らの使命を果たすことに一生懸命な優しい一人の少年です。次期テレビアニメで立ち向かう試練でも、大切な仲間と共に強い心でいてほしいと願わずにいれません。しかし、まずはファンとして、映画の主人公という大役を務めたことにお疲れ様と言いたいと思います。